

サービス産業のお話をちょっとお休みして、最近メディアや講演会などで、ライブで出井が話したことをもとに、今考えていること、感じていることをお伝えします。
◆10月25日(月):テレビ朝日「ワイド!スクランブル」のコーナー「出でよ!平成の龍馬たち」
コーナーに生出演
◆10月27日(水):国際政経懇話会(日本生産性本部主催)にて講演
◎ 「今年はすでに海外出張15回、滞在日数は50日を超えた。アメリカ、ヨーロッパ、中国など、各国を回って現地の人と話すと、皮膚感覚で今の経済・社会を 感じることができる。今の日本は、世界のほかの国々と比べて、あまりに平穏すぎるのでは。先週パリから帰ってきたが、年金問題でストライキがひどかった。 ドイツもイギリスも非常に不安定だった。アイルランドにも行ってきたが、景気が悪い。中国も尖閣諸島の問題であれだけデモが起きているし、世界ではさまざ まな不安が出て、道を歩くのも危ないという国が多いというなか、日本に戻ったら、何も起こっていない、凪のような状態。ただ住んでいる人たちだけが『暗い』『暗い』と言っているだけ。何か誤解があるのではないか?」
◎ 「日本はアジア圏にありながら、日本とアジアは断絶しているように感じる。日本がアジアに中に入っていくには、まだ壁がある。それはやはり戦争が原因。日本人は「戦争は終わった」と思い、中国はじめ、かつて侵略したアジアに国の人達に対し、謝罪したと思っているが、それが先方に伝わっていないのではない か。例えば、今、企業家として成功を収めている上海出身の香港女性が、上海にあった祖先の家を最近買い取ったと言っていた。1937年の日中戦争が、家族 をバラバラにしてしまったという。彼らの心は深く傷ついたままなのだ。」
◎ 「日本は敗戦後、アメリカと、どう補完的な関係になるかに尽くしてきた。軍備はアメリカに任せて、車や家電製品など、民生用品の開発に注力してきたことで 経済発展を遂げた。日米安保や貿易摩擦の問題なども起きたが、米ソの冷戦後から1990年ごろまで、いかに欧米の仲間になるかということで法律や理論体系 など、すべてアメリカに合わせてきた。この潮流を私は「グローバリゼーションのフェーズ1(G1)」と呼んでいるが、ソニーはまさにこのG1に適応することで売り上げを伸ばしてきた。私がソニーに入社した1960年と比べると、ソニーを卒業した2005年までの間に、売上が900倍になったほどだ。」
◎ 「ところが、1997年ごろから、もうひとつの潮流「グローバリゼーションのフェーズ2(G2)」が起こってきた。中国、インド、インドネシア、ベトナム といったアジアの国々が成長期に入ったことだ。ソニーも1997年に、G2の国々に対する戦略会議を行い、中国ほかアジアからの売上が日本より大きくなることを目標に掲げた。日本はアジアで唯一、欧米と同じ成熟期の国家で、G1に属している。中国は、日本はアメリカの一部という認識なのではないかと思う。その日本が、G2の国々にどう対応すべきか、真剣に考えなければならない。特に政治のレベルでは、そもそものG1、G2の認識も出来ていないのではないか。だから日本が成熟国であるにもかかわらず、政府が「成長戦略」などと言っている。成長期には成長することが戦略だから、本当に戦略が必要なのは成熟期なのだ。」
◎ 「今、15年ぶりの円高に歯止めがかからない、とマスコミが騒いでいる。今の円高は、日本がいいからということではなく、短期的なお金のパーキング先として、日本にきているだけ。中国などはドルに投資して、ずいぶん損失を被ったので、少し分離して、おそらく日本の国債などを買っているのではないかと思う。 だから、日本株は安いけれど、円が買われている。世の中には“大人の通貨”は5つしかない。ドル、ユーロ、ポンド、スイスフラン、円。この5つの通貨は、 どこでも自由に換えられる。そのほかは、まだ成長期の通貨でしかない。日本は5大通貨大国の1つ。この中で、今、短期的に一番安全にお金を置いておくところは日本だ、ということ。
◎さらに「円高で輸出産業が危ない」と、マスコミが報道するが、実際GDPの15%くらいし かない。同じ15%くらい輸入産業がある。だいたい相殺するくらい。私が輸出産業のソニーの社長になった1995年、円高は史上最高値を記録した。(4月19日79円75銭)そのとき、私は「しめた!」と思った。なぜなら、大変ではあるけれど、これで社員一同引き締まる、79円で競争力のあるものを作ら なきゃいけない、と。国際経済が専門だったから、歴史的に見て、この円高は永くは続かないとわかっていたから、この機会にコストカットして、生産性を上げ れば、円安に振れたとき、もうかるという図式だった。実際95年以降は連続的に円安に反転した。だからこそ79円でも利益出る商品を作っておくべきだと。 輸出企業にとって一番大切なのは、通貨の安定ということ。政治家が世界にそのシグナルを出さなければならない、それが出来ていないのは日本だけだから、そ こに投機的なマネーが入ってきてしまう。」
◎「世界が自分の通貨を安くしようという動きの中で、日本だけが何のメッセージも世界に発信していない。日本は政治家が『このまま円が強くあるべきだ』と言い切るなら、経済構造が変わるからそれでいい。困るのは、また安くなる かもしれないと政策がどっちつかずになること。全世界が今、自国の通貨安を望んでいるわけだから、今は抵抗するよりも、長期的にみて、日本が何を守って、何をやめるべきかを考えるいいチャンスではないか。」
◎「円高が続くなら、世界からいいパテント買ってきて、日本を研究開発の国にして、中国、インドネシア、ベトナムなどで作らせて、世界に売ればいい。そうしたら、世界が逆に、自国通貨高を求めるようになるから、それでバランスが働いてくる。」
◎ 「テレビ番組に出演する前日、何人かに、日本で製造業に従事しているのは100人中何人くらいと思うかと尋ねてみたら、ほとんどの人が70人から80人く らい、と答えた。ところが実際は、就業人口の7割近くがサービス産業。今、中国は必死になって製造業からサービス産業の国に変わろうとしているが、日本は 何十年も前に、サービス産業の国になっている。ところがマインド設定が『モノづくりの国』のまま、テレビも『こんな匠の技術があるのに』といった番組が好 きなので、国民が、そう誤解してしまっている。」
◎「すでにサービス産業の国になっていて、労働集約型の製造業、半導 体など資本集約型の産業は、アジアの成長国に流れてしまっている。サービス産業も海外への進出が難しい。それをきちんと認識をしてから、では日本はどうす るかと戦略をたてなければならない。たとえば、シンガポールは、はっきりと「知識集約型経済、ナレッジインダストリーの国家になる」と宣言している。
◎ 「街頭インタビューで、日本で勢いがある企業としてあがったのが『ユニクロ、楽天、ソフトバンク、日本マクドナルド』だったという結果について、注目すべ きは、これらは全部サービス産業だということ。メーカーは一社もない。にもかかわらず先ほど言ったように、日本人は製造業に7,8割の人が働いていると 思っている。日本は完璧にサービス産業の国となっている。」
◎「しかし、金融から保険、エネルギー、流通、小売、外食 や観光まで、すべてサービス第三次産業とひとくくりにしていること自体に無理がある。統計そのものが不備な状態であるが、サービス産業の多くは、海外への 進出が難しいものが多い。そういう意味でも、日本はすでに輸出頼みの経済構造ではなくなっている。」
◎ 「危機こそチャンス。危ういと見るか、よい機会、チャンスと見るか、紙一重。たとえばテレビの人はインターネットがきて『危ない』といっているが、インターネットの人たちはテレビ放送ができないけれど、テレビの人はインターネット配信ができる。そう考えたらテレビの人にとってみれば、こんなにいいチャンスはないという時期にきていると思う。」
◎「バブル崩壊が日本を失速させ、停滞させ、今の危機を招いた原因だという論調があるが、そうではない。1990年ごろから、日本は少しずつおかしくなってきた。産業構造の変化を見損なったからである。日本が世界一の経済大国に なったのだと、傲慢になっていたとき、アメリカは、必死に産業構造の大転換を起こして、つまり、ITと金融工学で、産業構造を組み替えた。日本はこの傲慢 になっていたので、この流れに乗り遅れた。」
◎「アップルは自社工場を持っていない。企画とデザインというナレッジ部 分だけを自国で行い、中国の工場で作り、世界に売っている。一番安いところで作って、一番高いところで売る。ユニクロも同じ考え方。一方、日本で優良企業 といわれてきたトヨタとかキャノンは何でも自分たちのところでやろうとする自前主義のまま。ITシステムのソフトウエアの分野でも、日本はガラパゴス化し ている。海外では、ドイツ銀行とかイギリスのBTとかが、アクセンチュアとか、インドの大手システムウエアの会社に国境を越えてアウトソースしているの に、日本は社内でしようとする。アウトソースした方が安いのに。つまり、日本はサービス産業を横展開しようとしていないのだ。」
◎ 「日本はベンチャーを助ける仕組みはほぼゼロの状態といっていい。アメリカではエンジェルとなる大金持ちや、ベンチャーキャピタルが沢山あるが、日本では 本気で育てようとするベンチャーキャピタルが存在しない。大学など、種まきをしている機関はあるが、育成までは及んでいない。日本では個人でエンジェルが いないのならば、大企業がコーポレートエンジェルとなって、新しいベンチャーの芽を育てていかなければならない。既存の企業が親の気持ちでベンチャーを育てていけば、日本を再生できる。」
◎「どんな企業でも組織でも、現状維持のまま延命しようとするXYZ(アルファベッ トの最後の3文字)の勢力と、新しい構造を創造しようとするABC(アルファベットの最初の3文字)の勢力が存在し、そのせめぎ合いがあるが、XYZを残しつつも、イノベーションでABCを生み出さなくてはならない。ABCとXYZのバランスのかじ取りが非常に重要となる。ソニー社長時代も、苦労したの は、XYZを志向する事業部長クラスを集めて、社長はABCの話をしなければならない。決してXYZが不必要というのではなく、既存分野としてある程度、 売上を上げている部門の利益を原資をとして、いかに次のABCに投資していくか。つまり、XYZが肥大化していくのを防ぎ、何をどう切り捨てていくか、経 営者はそのバランスを見極めなければならない。」
◎「政治の世界では、官僚がXYZとなるのは、その組織の性格上当然 だが、政治家がABC戦略を打ち出さなくてはならないのに、今の民主党はXYZ戦略ばかりである。政治家は本来ABC戦略を打ち出さなくてはならない。成 熟期にある日本で、成長戦略と言ってること自体、時代認識が間違っていると思う。事業仕分けもいいが、根本的に、この国をどうしていくべきか、ということ 必死になって真剣に考えてほしい。」
「日 本は歴史的にみて、何度も大転換をしてきた。こんなに大転換をしてきた国は世界でも稀で、日本は奇跡の国だと思う。まず第1に鎖国を断行したこと。これで 帝国主義の列強から身を守った。それを坂本龍馬たちが明治維新を起こした。これが第2の大転換。それが軍国主義に行きすぎて、第1次世界大戦に突入、第2 次世界大戦と進んだ。これもよい意味ではないかもしれないが大転換。そして4度目は戦後の経済成長。このように日本は定期的に大転換を起こしている。しかも、この大転換のサイクルは、どんどん短くなってきている。そう考えると、私は、日本は2030年には完璧によみがえるという自信がある。来年ぐらいから ホップ、2020年にステップ、2030年にジャンプと考えたら、こんなに今チャンスに恵まれている国はないと思う。」
◎ 大転換は、イノベーションの種(シーズ)と、社会的な必要性(ニーズ)の組み合わせによって起こる。今、日本のまわりのアジアの国々が、どんどんお金もち になってきていて、日本がすでに経験した産業革命を、今まさに中国やインドやインドネシアが必死で行っている最中。日本はすでに、その技術、ソフトウエ ア、ノウハウ、ビジネスモデルが沢山ある。そのアジアで、一番の社会的ニーズは都市化。中国は1週間に百万人くらいの都市化をしなければならないという話 があるくらいだ。その都市化の技術を、すべて日本はすでに持っている。まずは、アジアの都市化のニーズに応える日本の技術を組み合わせたショーケースの都 市を、1社ごとに単独にやらないで、日本自ら実験国家となって、国内の投資を喚起し、各地に里村都市をつくり、この国を改造してしまえばいい。そうして世 界からリスペクトされ、うらやましがられる国となれば、世界からも投資が集まるようになる。単なる観光ということではなく、その新しい都市を視察しに来る ように人が集まるようになる。メガ都市東京は、3600万もの人が50Km以内に住んでいて、10分ごとに大阪に新幹線が走っているが、そんな都市は世界 のどこにもない。しかしそんなメガ都市がある一方で、地方の農村との格差が広がっている。そこで、メガ都市の作りなおしではなく、このような新しく「里 村」みたいなコミュニティの都市を作ってみてはどうか。」
◎ 「里村」コンセプトの都市には、パソコンと同じように、基本的な機能、水とかエネルギー、通信とかに関しては、アメリカや中国など世界各国と協力して共通 化した都市OSを開発する。21世紀の今は、地球環境にも配慮し、IT技術を駆使し効率化したインフラが必要だ。これを中国やインドなどと合同のプロジェ クトにしてしまえば、とてつもないビジネスになると思う。欧米型の成熟国に対しても、高齢化社会に即した、新しい都市インフラに作りなおす需要が高まっている。この共通の都市OSの上に、それぞれの地域ごとの事情に応じたアプリケーションを開発すればよい。国境を越えた横展開のビジネス構造に日本は大転換 しなければならないのである。」
◎「イノベーションを起こすには、ソニーやトヨタのような大企業をもっと伸ばすという より、新しい会社ができて、新しいプロジェクトを起こしたほうがいい。有名な話だが、マイクロソフトのビル・ゲイツが『あなたの競争相手は誰か』と問われて、『今、どこかのガレージで一所懸命何か作っている会社じゃないか』と答えたそうだが、それが偶然でもグーグルになった。でも今日本には、グーグルのよ うな企業が生まれていない。新しい企業、プロジェクトを起こすには、政治も変わっていかなきゃいけない。自民党でも民主党でもいいが、きちんと成熟期の戦 略というものを、官僚を使って行ってほしい。政治でも企業でも、いまこそリーダーがビジョンを示さなければならないのである。」
◎ 「今、私個人としては、若い人を育てている最中なので、そういうベンチャー企業が順調に育ってほしいと強く願っている。先日北京に行ったら、華僑の会なら ぬ、和僑の会というのに誘われた。十数年前から、あちこちにできたらしいが、多くの日本人が単身乗り込んで、中国で頑張っている。そういう人達を支援していきたいと思う。中国自体も、あれだけいろんな問題を抱えているわけだから、しかるべき支援の手を差し伸べ、相互協力していくべきではないか。2030年に日本がよみがえる原動力はアジア各国との交流であり、アジアのニーズに応える産業を提供することである。ニーズのないところにイノベーションは起きな い、イノベーションのないところに未来はないのである。」
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